年末調整の仕組みと書き方|2025年の変更点と会社員が知っておくべき控除の申告方法

年末調整の書類と計算機

結論:年末調整は会社員にとって重要な税金還付の仕組み

年末調整は、会社員が毎月の給与から天引きされた所得税を年末に正しく計算し直し、払いすぎた税金を返してもらう(または不足分を納める)大切な手続きです。2025年(令和7年)分からは、基礎控除と給与所得控除が大幅に引き上げられ、103万円の壁が実質160万円になるなど、大きな改正が実施されます。この記事では、年末調整の基本的な仕組みから、2025年の重要な変更点、各種申告書の具体的な書き方まで、初心者でも安心して手続きができるよう丁寧に解説します。正しく申告することで、数万円単位で税金が戻ってくることもありますので、しっかり理解して確実に手続きを行いましょう。

年末調整の基本的な仕組み

年末調整とは何か

年末調整とは、会社が従業員に代わって行う所得税の精算手続きのことです。会社員の方は毎月の給与から所得税が天引き(源泉徴収)されていますが、この金額はあくまで「概算」です。実際の所得税は1年間の給与総額が確定してからでないと正確に計算できません。

そこで、年末に1年間の給与総額が確定した時点で、本来納めるべき所得税額を正しく計算し直します。毎月天引きされた税額の合計と比較して、払いすぎていれば還付され、不足していれば追加で納めることになります。この作業が「年末調整」です。

なぜ年末調整が必要なのか

毎月の源泉徴収税額は、「その月の給与額」を基準に計算されています。しかし、実際には以下のような要因で、年間を通じた正確な税額とズレが生じます。

  • 賞与(ボーナス)の有無:ボーナスの金額は月によって変動します
  • 各種控除の反映:生命保険料控除や地震保険料控除など、年間の支払額が確定してから申告する控除があります
  • 扶養家族の変動:年の途中で結婚したり、子どもが生まれたりすると扶養状況が変わります
  • 給与の変動:昇給や残業時間の増減によって年間給与額が変わります

年末調整によって、こうした要因を全て考慮した正確な税額を計算し、精算することができるのです。

年末調整と確定申告の違い

年末調整と確定申告は、どちらも所得税を正しく計算するための手続きですが、以下のような違いがあります。

項目 年末調整 確定申告
誰が行うか 会社(勤務先) 本人
対象者 会社員・パート・アルバイトなど給与所得者 自営業者、副業がある人、医療費控除を受ける人など
時期 11月~12月 翌年2月16日~3月15日
手続きの負担 比較的簡単(会社が主導) 自分で書類を作成・提出する必要がある

基本的に、会社員で給与以外の収入がなく、年末調整で全ての控除を申告できる場合は、確定申告は不要です。ただし、医療費控除や住宅ローン控除(初年度)、ふるさと納税のワンストップ特例を使わない場合などは、年末調整後に自分で確定申告を行う必要があります。

2025年(令和7年)の年末調整における重要な変更点

2025年分の年末調整では、税制改正により大きな変更が3つあります。これらは働く人にとって減税効果が大きい改正ですので、しっかり理解しておきましょう。

変更点①:基礎控除と給与所得控除の引き上げ

基礎控除とは、所得のある全ての人が受けられる基本的な控除です。2024年分までは所得金額が2,400万円以下の人で最大48万円でしたが、2025年分からは以下のように引き上げられます。

合計所得金額 2024年まで 2025年から
2,450万円以下 48万円 58万円
2,450万円超2,500万円以下 32万円 29万円
2,500万円超 16万円 0円

また、給与所得控除(給与所得者が受けられる必要経費のような控除)も見直されました。給与収入が850万円以下の場合、控除額が10万円引き上げられます。

この2つの控除の引き上げにより、年収160万円までは所得税がかからないことになります(いわゆる「103万円の壁」が「160万円の壁」へ移動)。特に年収が低いパート・アルバイトの方にとって、働きやすくなる改正といえます。

変更点②:扶養控除・配偶者控除等の所得要件の緩和

扶養控除や配偶者控除を受けるための「扶養親族や配偶者の所得要件」も緩和されました。

控除の種類 2024年まで 2025年から
扶養控除の対象となる親族の合計所得金額 48万円以下(給与収入103万円以下) 58万円以下(給与収入123万円以下)
配偶者控除の対象となる配偶者の合計所得金額 48万円以下(給与収入103万円以下) 58万円以下(給与収入123万円以下)
配偶者特別控除の対象範囲 合計所得48万円超133万円以下 合計所得58万円超143万円以下

これにより、これまで扶養から外れていた人が、2025年からは扶養親族として申告できるケースが出てきます。年末調整の際には、配偶者や子どもの年間所得をあらためて確認し、扶養に入れられるかチェックしてください。

変更点③:特定親族特別控除の新設

2025年から、新たに「特定親族特別控除」という制度が創設されました。これは、19歳~22歳の扶養親族(大学生の年齢層)がいる場合に、追加で控除を受けられる制度です。

対象となる特定親族:その年の12月31日時点で19歳以上23歳未満の扶養親族(ただし、合計所得金額が一定額以下の場合)

控除額:特定親族1人につき、その親族の合計所得金額に応じて最高63万円

特定親族の合計所得金額 控除額
58万円以下 63万円
58万円超123万円以下 段階的に減少(63万円~3万円)
123万円超 0円

この控除を受けるには、年末調整で「給与所得者の特定親族特別控除申告書」を提出する必要があります。大学生の子どもがいるご家庭では、大きな減税効果が期待できます。

※税制は将来変更される可能性があります。最新の情報は国税庁のウェブサイトなどで確認してください。

年末調整のメリット・デメリット

年末調整のメリット

1. 自分で確定申告をしなくて済む

会社が手続きを代行してくれるため、税務署に行ったり、複雑な申告書を作成したりする手間がかかりません。忙しい会社員にとって、これは大きなメリットです。

2. 払いすぎた税金が還付される

生命保険料控除や扶養控除などを申告することで、毎月天引きされていた所得税が年末に戻ってきます。人によっては数万円単位で還付されることもあります。

3. 手続きが比較的簡単

必要な書類を会社に提出するだけで、計算や税務署への提出は会社が行ってくれます。初めての方でも、記入例を見ながら進めれば十分対応できます。

4. 源泉徴収票がもらえる

年末調整が終わると「源泉徴収票」が発行されます。これは、住宅ローンの審査やクレジットカードの申込み、確定申告などで必要になる重要な書類です。

年末調整のデメリット(注意点)

1. 全ての控除が対象ではない

医療費控除、寄附金控除(ふるさと納税をワンストップ特例なしで行う場合)、雑損控除などは年末調整では申告できません。これらの控除を受けたい場合は、別途確定申告が必要です。

2. 申告漏れがあると損をする

生命保険料や地震保険料の控除証明書を紛失したり、扶養家族の変動を申告し忘れたりすると、本来受けられる控除が受けられず、税金を多く払うことになります。

3. 書類の準備が必要

保険会社から送られてくる控除証明書や、扶養親族のマイナンバーなど、準備すべき書類があります。紛失すると再発行に時間がかかるため、日頃から管理が必要です。

4. 期限がある

会社が定める提出期限(多くは11月下旬~12月上旬)を過ぎると、年末調整で控除を受けられなくなり、自分で確定申告をしなければならなくなります。

年末調整でよくある誤解と注意点

誤解①「年末調整をすれば確定申告は絶対に不要」

年末調整を受けた会社員でも、以下のケースでは確定申告が必要です。

  • 給与収入が2,000万円を超える人
  • 2か所以上から給与を受けている人(副業など)
  • 給与以外の所得(副業の事業所得、不動産所得など)が20万円を超える人
  • 医療費控除やふるさと納税(ワンストップ特例を使わない場合)を受けたい人
  • 住宅ローン控除を初めて受ける人(2年目以降は年末調整で可能)

これらに該当する方は、年末調整とは別に確定申告を行ってください。

誤解②「扶養控除は自動的に適用される」

扶養控除は申告しないと適用されません。「扶養控除等申告書」に扶養親族の情報を正しく記入して提出する必要があります。また、年の途中で結婚した、子どもが生まれたなどの場合は、その年から扶養に入れることができますので、必ず申告しましょう。

誤解③「保険料控除証明書は提出しなくてもいい」

生命保険料控除や地震保険料控除を受けるには、保険会社から送られてくる「控除証明書」の原本を会社に提出する必要があります(電子データでも可能な場合あり)。証明書なしでは控除を受けられませんので、大切に保管してください。

注意点①:配偶者の所得は正確に把握する

配偶者控除や配偶者特別控除を受けるには、配偶者の年間所得を正確に申告する必要があります。特に2025年からは所得要件が変更されているため、配偶者がパートやアルバイトをしている場合は、12月の給与見込みまで含めた年間収入を確認しましょう。

注意点②:マイナンバーの取り扱いに注意

年末調整の書類には、本人だけでなく扶養親族のマイナンバーも記入が必要です(会社によっては既に提出済みの場合、記入不要なこともあります)。マイナンバーは重要な個人情報ですので、取り扱いには十分注意してください。

注意点③:制度は変更される可能性がある

今回解説した2025年の変更点も含め、税制は毎年見直される可能性があります。将来的に控除額や要件が変わることもありますので、毎年最新の情報を確認することが大切です。

具体的なシミュレーション(数字で見る年末調整の効果)

実際に年末調整でどのくらい税金が変わるのか、具体例で見てみましょう。

ケース①:年収400万円の独身会社員(生命保険料控除あり)

前提条件

  • 年収:400万円
  • 独身(扶養親族なし)
  • 生命保険料:年間12万円支払い(一般の生命保険料)
  • 社会保険料:約58万円

2024年までの計算

  • 給与所得控除:124万円
  • 基礎控除:48万円
  • 生命保険料控除:4万円(新制度の上限)
  • 社会保険料控除:58万円
  • 課税所得:400万円 – 124万円 – 48万円 – 4万円 – 58万円 = 166万円
  • 所得税:166万円 × 5% – 0円 = 約8.3万円

2025年からの計算

  • 給与所得控除:134万円(10万円増)
  • 基礎控除:58万円(10万円増)
  • 生命保険料控除:4万円
  • 社会保険料控除:58万円
  • 課税所得:400万円 – 134万円 – 58万円 – 4万円 – 58万円 = 146万円
  • 所得税:146万円 × 5% – 0円 = 約7.3万円

減税効果:年間約1万円の減税

ケース②:年収500万円の既婚会社員(配偶者・子ども2人扶養、うち1人が大学生)

前提条件

  • 年収:500万円
  • 配偶者(専業主婦、所得0円)
  • 子ども2人(20歳の大学生、15歳の高校生)
  • 生命保険料:年間10万円
  • 社会保険料:約72万円

2024年までの計算

  • 給与所得控除:144万円
  • 基礎控除:48万円
  • 配偶者控除:38万円
  • 扶養控除:63万円(特定扶養親族19歳~22歳)
  • 生命保険料控除:4万円
  • 社会保険料控除:72万円
  • 課税所得:500万円 – 144万円 – 48万円 – 38万円 – 63万円 – 4万円 – 72万円 = 131万円
  • 所得税:131万円 × 5% – 0円 = 約6.6万円

2025年からの計算

  • 給与所得控除:154万円(10万円増)
  • 基礎控除:58万円(10万円増)
  • 配偶者控除:38万円
  • 扶養控除:63万円(20歳の大学生、特定扶養親族として)
  • 特定親族特別控除:63万円(新設)
  • 生命保険料控除:4万円
  • 社会保険料控除:72万円
  • 課税所得:500万円 – 154万円 – 58万円 – 38万円 – 63万円 – 63万円 – 4万円 – 72万円 = 48万円
  • 所得税:48万円 × 5% – 0円 = 約2.4万円

減税効果:年間約4.2万円の減税(特定親族特別控除の効果が大きい)

ケース③:年収150万円のパート主婦(夫の扶養から外れるか判定)

前提条件

  • 年収:150万円
  • 夫の年収:600万円

2024年まで

  • 給与所得控除:55万円
  • 合計所得金額:150万円 – 55万円 = 95万円
  • → 配偶者控除の要件(48万円以下)を超えているため、夫は配偶者特別控除を受ける
  • 夫の配偶者特別控除額:36万円

2025年から

  • 給与所得控除:65万円(10万円増)
  • 合計所得金額:150万円 – 65万円 = 85万円
  • → 配偶者控除の要件(58万円以下)は超えているが、配偶者特別控除の範囲内
  • 夫の配偶者特別控除額:38万円

効果:夫の控除額が36万円→38万円に増加(夫の所得税が約1,000円減税)

このように、2025年の改正により、多くの世帯で減税効果が期待できます。特に大学生の子どもがいる世帯や、パート収入のある配偶者がいる世帯では、効果が大きくなります。

今日からできるアクションプラン

年末調整をスムーズに進めるために、今からできることを難易度の低い順に紹介します。

アクション①:保険料控除証明書を探す・保管する

難易度:★☆☆☆☆

生命保険や地震保険に加入している方には、毎年10月~11月頃に「保険料控除証明書」が郵送されます。この書類は年末調整で必ず必要になりますので、届いたらすぐに分かる場所に保管してください。もし紛失した場合は、保険会社に連絡すれば再発行してもらえますが、時間がかかることもあるため、早めに対応しましょう。

アクション②:家族の収入状況を確認する

難易度:★★☆☆☆

配偶者や扶養親族がパートやアルバイトをしている場合は、年間の収入見込みを確認してください。2025年からは扶養の要件が変わっているため、年収123万円以下(所得58万円以下)であれば扶養に入れることができます。12月の給与見込みまで含めて計算しましょう。

アクション③:扶養親族のマイナンバーを確認する

難易度:★★☆☆☆

年末調整の書類には、扶養親族のマイナンバーを記入する欄があります(会社によっては既に提出済みの場合もあります)。家族のマイナンバーカードまたはマイナンバー通知カードを手元に用意しておきましょう。

アクション④:会社から配布される書類をよく読む

難易度:★★★☆☆

11月頃になると、会社から年末調整の案内と必要書類が配布されます。提出期限や記入方法、提出書類のチェックリストなどが記載されていますので、よく読んで理解してください。不明な点は総務や人事部に早めに確認しましょう。

アクション⑤:申告書を記入する(記入例を参考に)

難易度:★★★★☆

年末調整で提出する主な書類は以下の通りです。

  1. 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書:扶養親族の情報を記入
  2. 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書:自分の所得、配偶者の所得、特定親族(大学生の子どもなど)の情報を記入
  3. 給与所得者の保険料控除申告書:生命保険料、地震保険料、社会保険料などの情報を記入
  4. 住宅借入金等特別控除申告書(該当者のみ):住宅ローン控除を受ける人が記入

それぞれの書類には記入例が添付されていることが多いので、それを見ながら丁寧に記入してください。国税庁のウェブサイトにも詳しい記入例が掲載されています。

分からない箇所は空欄のまま提出せず、必ず会社の担当者に確認してから記入しましょう。

まとめ

年末調整について、重要なポイントをまとめます。

  • 年末調整は、会社が代行してくれる所得税の精算手続きです。正しく申告すれば、払いすぎた税金が戻ってきます。
  • 2025年からの主な変更点:基礎控除・給与所得控除の引き上げ(103万円の壁→160万円の壁)、扶養控除等の所得要件緩和(103万円→123万円)、特定親族特別控除の新設(大学生の子どもがいる世帯に有利)
  • 年末調整のメリット:確定申告不要、手続きが簡単、税金の還付が受けられる
  • 注意点:医療費控除など一部の控除は年末調整では申告できない、保険料控除証明書など必要書類を準備する必要がある、申告漏れがあると損をする
  • よくある誤解:年末調整をすれば必ず確定申告不要とは限らない、扶養控除は自動適用されない、保険料控除証明書の提出は必須
  • 減税効果:2025年の改正により、多くの世帯で年間数千円~数万円の減税効果が期待できる(特に大学生の子どもがいる世帯)
  • 今日からできること:保険料控除証明書の保管、家族の収入確認、マイナンバーの準備、会社の案内をよく読む、記入例を参考に申告書を記入

年末調整は、一見複雑に見えるかもしれませんが、一つひとつ確認していけば初心者でも十分対応できます。分からないことがあれば、会社の担当者に遠慮なく質問してください。正しく申告することで、家計の負担を少しでも軽くすることができます。できるところから一緒に進めていきましょう。

※この記事の内容は2025年11月時点の税制に基づいています。税制は将来変更される可能性がありますので、最新の情報は国税庁のウェブサイトや税理士にご確認ください。個別の節税アドバイスや確定申告の判断については、専門家にご相談ください。

カマタ

カマタ

はじめまして、カマタです。
これまで学んできた投資の知識を少しでも誰かの役に立てられればと思い、このブログを始めました。
無理なく続けながら、分かりやすい情報を発信していきます。

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