結論:セルフメディケーション税制で市販薬の購入が節税につながる
セルフメディケーション税制は、ドラッグストアで購入できる対象の市販薬(OTC医薬品)が年間12,000円を超えた場合、その超えた金額を所得から控除できる制度です。
この記事では、セルフメディケーション税制の基本的な仕組みと、従来の医療費控除との違いや使い分けのポイント、そして確定申告で賢く活用する方法を、初心者の方にもわかりやすく解説します。
この記事で分かること:
- セルフメディケーション税制の対象となる医薬品と購入金額の基準
- 医療費控除との違いと、どちらを選ぶべきかの判断基準
- 実際にいくら戻ってくるのかの具体的なシミュレーション
- 確定申告で必要な書類と手続きの流れ
- 今日からできる節税のための準備と行動プラン
日常的に使う市販薬が節税につながるこの制度を、ぜひ活用していきましょう。
セルフメディケーション税制とは何か?基本の仕組み
医療費控除の「特例」として設けられた制度
セルフメディケーション税制は、正式には「特定一般用医薬品等購入費を支払った場合の医療費控除の特例」といい、医療費控除の特例として2017年1月から始まりました。
この制度は、軽い病気やけがを自分で手当てする「セルフメディケーション」を推進するために作られたもので、医療機関にかからず市販薬で対処することを国が後押しする狙いがあります。
制度の歴史:
- 2017年1月:5年間の特例として制度開始
- 2022年1月:5年間延長・内容見直し(対象品目拡大、手続き簡易化)
- 2026年12月まで:現行制度が継続予定
※ただし、制度は将来変更される可能性があります。最新情報は国税庁や厚生労働省のウェブサイトで確認してください。
控除を受けられる条件
セルフメディケーション税制を利用するには、以下の条件を満たす必要があります。
1. 健康維持増進・疾病予防の取組をしていること
次のいずれかの取組を行っている必要があります:
- 健康診断(会社の定期健診、市区町村の健康診査など)
- 予防接種(インフルエンザワクチンなど)
- 定期健康診断(特定健康診査、人間ドックなど)
- がん検診(市区町村や勤務先で実施するもの)
会社員の方であれば、毎年受けている定期健康診断がこの条件を満たしますので、多くの方がクリアできる条件です。
2. 対象医薬品の購入金額が年間12,000円を超えること
1月1日から12月31日までの1年間に、自分または生計を一にする家族のために購入した対象医薬品の合計額が12,000円を超えている必要があります。
3. 確定申告を行うこと
会社員の方でも、この控除を受けるには自分で確定申告をする必要があります。年末調整では適用されません。
控除額の計算方法
控除額は以下の計算式で求められます:
控除額 = 対象医薬品の購入金額 – 12,000円(下限額)
ただし、控除の上限は88,000円です。つまり、年間100,000円の対象医薬品を購入しても、控除できるのは88,000円までとなります。
| 購入金額 | 控除額 |
|---|---|
| 10,000円 | 0円(12,000円未満のため対象外) |
| 20,000円 | 8,000円(20,000円 – 12,000円) |
| 50,000円 | 38,000円(50,000円 – 12,000円) |
| 100,000円 | 88,000円(上限) |
| 150,000円 | 88,000円(上限) |
対象となる医薬品(OTC医薬品)とは
すべての市販薬が対象になるわけではありません。スイッチOTC医薬品と呼ばれる、もともと医療用医薬品として使われていたものが一般用医薬品に転用された薬が主な対象です。
対象医薬品の見分け方:
- 商品パッケージに「セルフメディケーション税控除対象」のマークがある
- レシートに「★」や「●」などの印がついている(店舗による)
- 厚生労働省のウェブサイトで対象品目リストを確認できる
対象となる主な医薬品の種類:
- かぜ薬(解熱鎮痛成分を含むもの)
- 鎮痛剤(ロキソニン、イブプロフェンなど)
- 胃腸薬(H2ブロッカーを含むものなど)
- アレルギー用薬(抗ヒスタミン薬など)
- 水虫薬(抗真菌薬)
- 肩こり・腰痛の貼付薬
- 禁煙補助剤
※ビタミン剤や栄養ドリンクなど、医薬品でないものは対象外です。
医療費控除との違いとどちらを選ぶべきか
医療費控除との主な違い
セルフメディケーション税制と従来の医療費控除は、どちらか一方しか選べません。両方を同時に利用することはできないため、どちらが有利かを判断する必要があります。
| 項目 | セルフメディケーション税制 | 従来の医療費控除 |
|---|---|---|
| 対象 | 対象のOTC医薬品のみ | 医療費全般(診察代、薬代、入院費など) |
| 下限額 | 12,000円 | 10万円(所得200万円未満は所得の5%) |
| 控除上限 | 88,000円 | 200万円 |
| 健康診断等の取組 | 必要 | 不要 |
| 併用 | 不可(どちらか一方を選択) | 不可(どちらか一方を選択) |
どちらを選ぶべきか?判断の基準
セルフメディケーション税制が有利なケース:
- 年間の医療費が10万円未満だが、対象医薬品を12,000円以上購入している
- 健康で病院にあまり行かないが、市販薬はよく買う
- 家族全員が健康で医療費があまりかからない
従来の医療費控除が有利なケース:
- 年間の医療費が10万円を大きく超えている
- 入院や手術などで高額な医療費がかかった
- 家族に持病があり、継続的な通院や投薬がある
計算例で比較:
ケース1:医療費8万円、対象医薬品2万円の場合
- 医療費控除:0円(10万円未満のため適用なし)
- セルフメディケーション税制:8,000円(20,000円 – 12,000円)
- → セルフメディケーション税制が有利
ケース2:医療費15万円、対象医薬品2万円の場合
- 医療費控除:50,000円(150,000円 – 100,000円)
- セルフメディケーション税制:8,000円(20,000円 – 12,000円)
- → 医療費控除が有利
※医療費控除を選ぶ場合、対象医薬品の購入費も医療費に含めることができます。
メリット・デメリット
セルフメディケーション税制のメリット
1. 医療費が少なくても控除を受けられる
従来の医療費控除は10万円が下限でしたが、セルフメディケーション税制は12,000円から控除を受けられるため、健康な方でも利用しやすい制度です。
2. 日常的な市販薬の購入が節税につながる
ドラッグストアで買える身近な医薬品が対象なので、意識して購入すれば節税効果が得られます。
3. 家族分をまとめて申告できる
生計を一にする家族(配偶者や子ども、同居の親など)の分も合算できるため、家族が多いほど控除額が増える可能性があります。
4. 手続きが比較的簡単
2022年の制度見直しで、領収書の保管は必要ですが、明細書の作成が簡易化され、手続きがしやすくなりました。
セルフメディケーション税制のデメリット
1. 医療費控除と併用できない
どちらか一方しか選べないため、医療費が多い年は医療費控除の方が有利になる可能性があります。事前にどちらが得かを計算する手間がかかります。
2. 対象医薬品が限定されている
すべての市販薬が対象ではなく、スイッチOTC医薬品などに限られるため、購入時に対象かどうかを確認する必要があります。
3. 健康診断等の取組が必要
会社員であれば定期健診で条件を満たせますが、自営業やフリーランスの方は自主的に健康診断を受ける必要があります。
4. 確定申告が必須
会社員でも年末調整では適用されないため、自分で確定申告をする必要があります。慣れていない方には手間に感じることがあります。
5. レシートの保管が必要
1年間、対象医薬品を購入したレシートや領収書を保管しておく必要があります。紛失すると控除が受けられません。
注意点・よくある誤解
注意点1:医療費控除との選択は慎重に
セルフメディケーション税制と医療費控除は、確定申告の際にどちらか一方を選ぶ必要があります。一度申告した後に変更することはできませんので、事前にどちらが有利かをしっかり計算しましょう。
特に年の途中で急な入院や手術があった場合、医療費が10万円を超える可能性があるため、12月末までの医療費をできるだけ正確に把握しておくことが大切です。
注意点2:対象医薬品かどうかの確認を忘れずに
購入時に「セルフメディケーション税控除対象」のマークがついているか、レシートに印がついているかを確認してください。対象外の商品を誤って申告しても控除は認められません。
不安な場合は、厚生労働省のウェブサイトで対象品目リストを確認するか、薬局・ドラッグストアの薬剤師に尋ねると安心です。
注意点3:健康診断等の証明書が必要
確定申告の際、健康診断や予防接種を受けたことを証明する書類(健康診断の結果通知書、領収書、予防接種の領収書など)が必要です。これらの書類も大切に保管しておきましょう。
よくある誤解1:「すべての市販薬が対象」ではない
ビタミン剤、栄養ドリンク、サプリメントなどは医薬品ではないため対象外です。また、医薬品でも対象となるのはスイッチOTC医薬品などに限られます。
よくある誤解2:「12,000円分が戻ってくる」わけではない
控除額は「課税所得から差し引かれる金額」であり、その金額がそのまま戻ってくるわけではありません。実際の減税額は、控除額に所得税率と住民税率を掛けた金額です。
例:控除額20,000円、所得税率10%の場合
- 所得税の減税:20,000円 × 10% = 2,000円
- 住民税の減税:20,000円 × 10% = 2,000円
- 合計減税額:4,000円
よくある誤解3:「年末調整でできる」と思っている
セルフメディケーション税制は年末調整では適用されません。必ず確定申告が必要です。
注意点4:制度は将来変更される可能性がある
セルフメディケーション税制は現在、2026年12月末までの特例措置として実施されています。その後も延長される可能性はありますが、制度の内容が変更されたり、廃止されたりする可能性もあります。
毎年、国税庁や厚生労働省の最新情報を確認することをおすすめします。
具体例:実際にいくら戻ってくるのか
シミュレーション1:年収400万円の会社員(独身)
前提条件:
- 年収:400万円
- 課税所得:約200万円(各種控除後)
- 所得税率:10%
- 住民税率:10%
- 対象医薬品の購入金額:30,000円
控除額の計算:
控除額 = 30,000円 – 12,000円 = 18,000円
減税額の計算:
- 所得税の減税:18,000円 × 10% = 1,800円
- 住民税の減税:18,000円 × 10% = 1,800円
- 合計減税額:3,600円
年間30,000円の対象医薬品を購入すると、約3,600円が戻ってきます。
シミュレーション2:年収600万円の会社員(配偶者・子ども2人)
前提条件:
- 年収:600万円
- 課税所得:約300万円(各種控除後)
- 所得税率:10%
- 住民税率:10%
- 対象医薬品の購入金額:60,000円(家族4人分)
控除額の計算:
控除額 = 60,000円 – 12,000円 = 48,000円
減税額の計算:
- 所得税の減税:48,000円 × 10% = 4,800円
- 住民税の減税:48,000円 × 10% = 4,800円
- 合計減税額:9,600円
家族4人で年間60,000円の対象医薬品を購入すると、約9,600円が戻ってきます。
シミュレーション3:年収800万円の会社員(配偶者・親と同居)
前提条件:
- 年収:800万円
- 課税所得:約500万円(各種控除後)
- 所得税率:20%
- 住民税率:10%
- 対象医薬品の購入金額:100,000円(家族全員分)
控除額の計算:
控除額 = 100,000円 – 12,000円 = 88,000円(ただし上限88,000円のため)= 88,000円
減税額の計算:
- 所得税の減税:88,000円 × 20% = 17,600円
- 住民税の減税:88,000円 × 10% = 8,800円
- 合計減税額:26,400円
所得税率が高い方ほど、減税効果が大きくなります。年間100,000円の対象医薬品を購入すると、約26,400円が戻ってきます。
医療費控除と比較した場合
ケース:年収500万円、医療費9万円、対象医薬品2万円
医療費控除を選んだ場合:
- 医療費(対象医薬品含む):90,000円 + 20,000円 = 110,000円
- 控除額:110,000円 – 100,000円 = 10,000円
- 減税額:10,000円 × 20%(所得税10% + 住民税10%)= 2,000円
セルフメディケーション税制を選んだ場合:
- 控除額:20,000円 – 12,000円 = 8,000円
- 減税額:8,000円 × 20% = 1,600円
この場合、医療費控除の方が400円有利です。ただし、医療費が10万円未満の場合はセルフメディケーション税制の方が有利になります。
今日からできるアクションプラン
アクション1:健康診断を必ず受ける(難易度:★☆☆☆☆)
セルフメディケーション税制を利用するには、健康診断などの取組が必要です。会社員の方は毎年の定期健診を必ず受けましょう。自営業やフリーランスの方は、市区町村の健康診査や人間ドックを受けることをおすすめします。
やること:
- 会社員:定期健診を受診し、結果通知書を保管
- 自営業・フリーランス:市区町村の健康診査や人間ドックを予約・受診
- 健康診断の領収書や結果通知書を保管する
アクション2:対象医薬品のマークを確認する習慣をつける(難易度:★★☆☆☆)
ドラッグストアで市販薬を購入する際は、パッケージに「セルフメディケーション税控除対象」のマークがあるかを確認しましょう。レジで受け取るレシートにも印がついているかチェックする習慣をつけると、年末の集計が楽になります。
やること:
- 購入時に商品パッケージのマークを確認
- レシートに対象商品の印があるか確認
- 分からない場合は薬剤師に尋ねる
アクション3:レシートを専用の封筒や箱に保管する(難易度:★☆☆☆☆)
対象医薬品を購入したら、レシートや領収書を専用の封筒や箱に入れて保管しましょう。1年間分をまとめて保管しておくことで、確定申告の時期にスムーズに手続きができます。
やること:
- 「セルフメディケーション税制用」と書いた封筒や箱を用意
- 購入したらすぐにレシートを入れる習慣をつける
- 月ごとに分けて保管すると集計が楽
- 家族の分も一緒に保管する
アクション4:年末に購入金額を集計する(難易度:★★★☆☆)
12月末になったら、1年間に購入した対象医薬品の金額を集計しましょう。12,000円を超えているか、医療費控除と比較してどちらが有利かを確認します。
やること:
- 保管していたレシートを取り出す
- 対象医薬品の購入金額を合計する
- 医療費の合計も出して、どちらが有利か計算する
- エクセルや家計簿アプリで記録すると便利
アクション5:確定申告を行う(難易度:★★★★☆)
翌年の2月16日から3月15日の確定申告期間に、セルフメディケーション税制の適用を受けるための申告を行います。
やること:
- 国税庁の「確定申告書等作成コーナー」で申告書を作成(e-Taxが便利)
- 「医療費控除の特例(セルフメディケーション税制)」を選択
- 対象医薬品の購入金額を入力
- 健康診断の証明書類を添付または提示
- レシートは自宅で5年間保管(税務署への提出は不要だが、求められた場合に提示)
初めての方は、税務署の無料相談会を利用すると安心です。
まとめ
セルフメディケーション税制について、重要なポイントをおさらいしましょう。
- 対象医薬品を年間12,000円以上購入すると、超えた金額を所得から控除できる(上限88,000円)
- 医療費控除との併用は不可。医療費が10万円未満で対象医薬品を多く買う方に有利
- 健康診断などの取組が必須。会社員は定期健診でクリア可能
- 実際の減税額は所得税率によって変わる。控除額の10〜30%程度が目安
- 確定申告が必要。年末調整では適用されない
- レシートと健康診断の証明書を必ず保管。確定申告時に必要
- 制度は2026年12月まで。将来変更される可能性があるため最新情報を確認
健康で医療費があまりかからない方にとって、セルフメディケーション税制は身近で使いやすい節税制度です。日頃からドラッグストアで市販薬を購入している方は、ぜひレシートを保管して活用してみてください。
まずは今日から、健康診断の受診と、購入時の対象医薬品マークの確認、レシートの保管を始めましょう。小さな積み重ねが、確定申告の時期に役立ちます。できるところから一緒に進めていきましょう。