結論
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、会社が掛金を出してくれる老後資金づくりの制度です。運用益が非課税になり、受取時にも税制優遇があるため、会社員にとって非常に有利な仕組みとなっています。2022年10月からはiDeCo(個人型確定拠出年金)との併用も原則可能になり、2024年12月にはさらに拠出限度額が見直されました。この記事では、企業型DCの基本的な仕組みから、iDeCoとの併用方法、運用のポイント、注意すべき点まで、初心者の方でも安心して理解できるよう丁寧に解説します。制度を正しく理解し、できるところから老後資金づくりを始めていきましょう。
企業型確定拠出年金(企業型DC)とは?制度の基本
企業型DCの仕組み
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、会社が従業員のために掛金を拠出し、従業員自身が運用方法を選んで将来の年金を準備する制度です。「確定拠出」という名前が示すように、会社が出す掛金の額は決まっていますが、将来受け取れる年金額は運用成績によって変わります。
この制度は、従来の「確定給付企業年金(DB)」とは異なり、従業員一人ひとりに専用の口座が用意され、そこで資産を管理します。自分の口座残高や運用状況がいつでも確認できるため、透明性が高いのが特徴です。
主な用語の解説
- 掛金:会社が毎月積み立ててくれるお金のこと
- 運用指図者:自分で運用商品を選んで運用する人のこと
- マッチング拠出:会社の掛金に加えて、従業員自身も掛金を上乗せできる仕組み
- 拠出限度額:法律で決められた掛金の上限額
- 確定給付企業年金(DB):将来受け取れる年金額があらかじめ決まっている企業年金制度
企業型DCの対象者
企業型DCは、制度を導入している会社に勤める従業員が対象となります。正社員だけでなく、契約社員やパート社員も、会社の規約によっては加入できる場合があります。ただし、すべての企業が導入しているわけではないため、まずは自分の会社が企業型DCを導入しているかを確認しましょう。
人事部や総務部に問い合わせるか、給与明細に「企業型DC」や「確定拠出年金」の記載があるかをチェックしてみてください。
企業型DCのメリット・デメリット
5つの大きなメリット
1. 会社が掛金を出してくれる
最大のメリットは、会社が掛金を負担してくれる点です。自分で積み立てるiDeCoと違い、給与から天引きされることなく、会社が老後資金を準備してくれます。これは実質的な給与の上乗せと考えることができます。
2. 運用益が非課税
通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかりますが、企業型DCで得た運用益には税金がかかりません。長期間運用すると、この非課税メリットは大きな差となって現れます。
3. 受取時にも税制優遇がある
将来年金を受け取る際、一時金として受け取る場合は「退職所得控除」、年金として受け取る場合は「公的年金等控除」が適用され、税負担が軽減されます。
4. 自分で運用商品を選べる
定期預金のような元本確保型商品から、投資信託のようなリスク商品まで、自分のリスク許容度に合わせて選択できます。運用商品の変更も可能なので、ライフステージに応じた調整ができます。
5. 転職時にも持ち運びできる(ポータビリティ)
転職先に企業型DCがあれば資産を移換できますし、転職先に制度がない場合でもiDeCoに移換することで、それまでの資産を引き継ぐことができます。
注意すべきデメリット
1. 原則60歳まで引き出せない
企業型DCの最大の制約は、原則として60歳になるまで資産を引き出せないことです。急な出費が必要になっても、この資金には手をつけられません。そのため、日常生活の緊急資金は別に確保しておく必要があります。
2. 運用は自己責任
運用商品の選択や運用成績は自己責任です。元本確保型商品を選べばリスクは低いですが、インフレに負ける可能性もあります。逆にリスク商品を選べば、資産が減る可能性もあります。
3. 手数料がかかる
口座管理手数料などが毎月かかります(通常は会社が負担しますが、一部従業員負担の場合もあります)。運用商品にも信託報酬という手数料がかかるため、手数料の低い商品を選ぶことが大切です。
iDeCoとの併用について|2022年・2024年の法改正
2022年10月の法改正:併用が原則可能に
以前は、企業型DCに加入している人がiDeCoに加入するには、会社の規約に特別な定めが必要でした。しかし、2022年10月の法改正により、企業型DC加入者も原則としてiDeCoに加入できるようになりました。
これにより、会社の掛金だけでは老後資金が不安という方でも、個人でさらに上乗せして老後資金を準備できるようになりました。
2024年12月の法改正:拠出限度額の見直し
2024年12月1日から、確定給付企業年金(DB)などの他制度に加入している場合の拠出限度額が見直されました。
改正前:DBなど他制度がある場合、iDeCoの拠出限度額は月額12,000円まで
改正後:DBなど他制度がある場合でも、iDeCoの拠出限度額は月額20,000円まで(ただし、各月の企業型DCとDBの掛金相当額との合計が月額55,000円の範囲内)
この改正により、DB加入者や公務員の方でも、より多くの金額をiDeCoで積み立てられるようになりました。
企業型DCとiDeCoの併用時の拠出限度額
企業型DCとiDeCoを併用する場合、以下のルールがあります:
| 会社の制度 | 拠出限度額の合計 | iDeCoの上限 |
|---|---|---|
| 企業型DCのみ | 月額55,000円 | 月額20,000円 |
| 企業型DC+DB等 | 月額55,000円 | 月額20,000円(2024年12月改正) |
具体例:会社の企業型DC掛金が月額30,000円の場合
→ iDeCoで追加できる掛金は月額20,000円まで(合計50,000円で限度額55,000円の範囲内)
注意点:マッチング拠出(会社の掛金に従業員が上乗せする制度)とiDeCoは併用できません。どちらか一方を選ぶ必要があります。
注意点・よくある誤解
制度変更のリスク
企業型DCやiDeCoは法律に基づく制度のため、将来的に制度が変更される可能性があります。拠出限度額、税制優遇の内容、受給開始年齢などが見直されることもあり得ます。実際、2022年や2024年にも制度改正が行われています。
制度を利用する際は、最新の情報を定期的に確認し、変更があった場合には柔軟に対応できるよう心がけましょう。
よくある誤解
誤解1:「企業型DCがあればiDeCoは不要」
会社の掛金だけで十分な老後資金が準備できるとは限りません。老後に必要な資金は人それぞれですので、不足分はiDeCoや他の資産形成方法で補う必要があります。
誤解2:「元本確保型なら絶対に安全」
定期預金などの元本確保型商品は元本割れリスクは低いですが、インフレ(物価上昇)によって実質的な価値が目減りするリスクがあります。長期的にはある程度のリスク商品を組み入れることも検討しましょう。
誤解3:「運用は一度決めたら変更できない」
運用商品の配分変更(スイッチング)はいつでも可能です。ライフステージや市場環境の変化に応じて、適宜見直しましょう。
誤解4:「退職したら資産が消える」
退職しても資産は消えません。転職先の企業型DCやiDeCoに移換することで、引き続き運用を続けられます。ただし、移換手続きを6ヶ月以内に行わないと、自動的に国民年金基金連合会に移換され、手数料がかかる場合があるので注意が必要です。
具体的なシミュレーション|数字で見る企業型DCの効果
ケース1:会社掛金のみの場合
条件:
・会社掛金:月額20,000円
・運用期間:30年
・想定利回り:年3%
結果:
・掛金総額:720万円(20,000円 × 12ヶ月 × 30年)
・運用後の資産:約1,165万円
・運用益:約445万円
通常の課税口座であれば、運用益445万円に対して約89万円(20.315%)の税金がかかりますが、企業型DCではこれが非課税となります。
ケース2:企業型DC+iDeCo併用の場合
条件:
・会社掛金(企業型DC):月額20,000円
・個人掛金(iDeCo):月額20,000円
・運用期間:30年
・想定利回り:年3%
結果:
・掛金総額:1,440万円(40,000円 × 12ヶ月 × 30年)
・運用後の資産:約2,330万円
・運用益:約890万円
iDeCoの掛金は全額所得控除の対象となるため、年間24万円の掛金に対して、所得税・住民税率が30%の方なら年間約7.2万円の節税効果があります。30年間で約216万円の節税となり、運用益の非課税と合わせて大きなメリットがあります。
ケース3:マッチング拠出を利用する場合
条件:
・会社掛金:月額20,000円
・マッチング拠出(従業員掛金):月額15,000円
・運用期間:30年
・想定利回り:年3%
結果:
・掛金総額:1,260万円(35,000円 × 12ヶ月 × 30年)
・運用後の資産:約2,039万円
・運用益:約779万円
マッチング拠出の掛金も全額所得控除の対象です。iDeCoとの違いは、マッチング拠出は会社の企業型DC口座で一括管理されるため、手続きがシンプルな点です。
受取時の税金シミュレーション
60歳で一時金として2,000万円を受け取る場合(勤続年数30年と仮定):
退職所得控除額:
20年以下の部分:40万円 × 20年 = 800万円
20年超の部分:70万円 × 10年 = 700万円
合計:1,500万円
課税対象額:
(2,000万円 – 1,500万円)× 1/2 = 250万円
この250万円に対して所得税・住民税が課税されますが、通常の所得に比べて大幅に税負担が軽減されています。
今日からできるアクションプラン
1. 自分の会社の制度を確認する(難易度:★☆☆☆☆)
まずは、自分の会社が企業型DCを導入しているか、導入している場合は掛金額や選べる運用商品を確認しましょう。人事部や総務部に問い合わせるか、社内イントラネットで確認できます。給与明細にも記載されていることがあります。
2. 現在の運用状況をチェックする(難易度:★☆☆☆☆)
すでに企業型DCに加入している方は、運用商品の選択状況と残高を確認しましょう。多くの場合、専用のウェブサイトやアプリでログインして確認できます。初期設定のまま放置している方も多いので、まずは現状把握から始めましょう。
3. 運用商品の基本を学ぶ(難易度:★★☆☆☆)
運用商品には大きく分けて「元本確保型」と「投資信託(リスク商品)」があります。それぞれの特徴を理解し、自分のリスク許容度に合った配分を考えましょう。一般的には、若いうちはリスク商品の比率を高め、定年が近づくにつれて元本確保型を増やすのが基本です。
4. iDeCo併用の可否と限度額を確認する(難易度:★★★☆☆)
会社の企業型DC掛金額を確認し、iDeCoとの併用が可能か、可能な場合はいくらまで拠出できるかを計算しましょう。2024年12月の改正で限度額が変わっているため、最新の情報を確認することが大切です。
5. マッチング拠出かiDeCoかを比較検討する(難易度:★★★★☆)
会社がマッチング拠出制度を導入している場合、iDeCoと比較してどちらが有利かを検討しましょう。一般的な比較ポイントは以下の通りです:
- 手数料:マッチング拠出の方が低い場合が多い
- 運用商品の選択肢:iDeCoの方が豊富な場合がある
- 管理のしやすさ:マッチング拠出は会社で一括管理
- 転職時の扱い:iDeCoは転職しても継続可能
まとめ
- 企業型確定拠出年金(企業型DC)は、会社が掛金を出してくれる老後資金づくりの制度で、運用益が非課税、受取時にも税制優遇がある
- 2022年10月からは企業型DC加入者も原則としてiDeCoに加入可能になり、2024年12月には拠出限度額がさらに拡大された
- 企業型DCとiDeCoを併用する場合、合計で月額55,000円まで拠出可能(iDeCoは最大20,000円)
- 原則60歳まで引き出せない制約があるため、日常生活の緊急資金は別に確保しておく必要がある
- 運用は自己責任だが、元本確保型からリスク商品まで自分に合った商品を選択でき、いつでも変更可能
- マッチング拠出とiDeCoは併用できないため、手数料・運用商品・管理のしやすさなどを比較して選択する
- 制度は将来変更される可能性があるため、定期的に最新情報を確認することが大切
- まずは自分の会社の制度を確認し、現在の運用状況をチェックすることから始めよう
- 長期運用により、運用益の非課税メリットと複利効果が大きな資産形成につながる
- 老後資金2,000万円問題への備えとして、企業型DCとiDeCoの活用は有効な選択肢の一つ
企業型DCは、会社員の方にとって非常に有利な老後資金づくりの仕組みです。制度の内容を正しく理解し、自分に合った運用方法を選択することで、将来の安心につながります。まずはできるところから一歩ずつ、一緒に老後資金づくりを進めていきましょう。