投資を始めてから3年が経った春の終わり、私はスマホを握りしめたまま、長い時間考え込んでいました。画面に映る投資口座の残高は、順調に増え続けていました。含み益も、これまでで最も大きな金額になっています。
そんな時、ふと「この利益の一部を使って、家族で旅行に行こうか」と思ったのです。子どもたちももう大きくなってきた。今のうちに、家族の思い出を作りたい。そう考えたのは自然なことでした。
でも、いざ利益確定のボタンを押そうとすると、指が止まってしまったのです。
増やし続けることが正義だと思っていた
「せっかく増えた資産を使ってしまっていいのだろうか」
「ここで売ってしまったら、もったいないのでは」
「もっと大きく育ててから使うべきなのでは」
頭の中で、そんな声がぐるぐると回り始めました。投資を始めた頃から、私は「長期投資」「複利の力」「我慢が大切」といった言葉を信じてきました。それは間違いではありません。でも、いつの間にか、お金を増やすこと自体が目的になっていたのかもしれません。
投資の勉強をするうちに、利益確定のタイミングを逃すことや、早すぎる利食いの危険性について学びました。行動ファイナンスの本には、人は利益が出ると早く確定したがり、損失が出ると放置してしまう傾向があると書いてありました。
「自分はそうならないように気をつけよう」と思ってきました。でも、今の私は逆に、利益を使うこと自体に罪悪感を覚えていたのです。
妻の一言が教えてくれたこと
その夜、妻に相談しました。
「投資で増えたお金を使おうと思うんだけど、なんだかもったいない気がして」
妻は少し驚いた顔をして、こう言いました。
「あなた、何のために投資を始めたんだっけ?」
その言葉にハッとしました。そうです。私が投資を始めたのは、将来の不安を減らすため、家族との時間をより豊かにするため、人生の選択肢を増やすためだったはずです。お金を増やすこと自体が目的ではなく、それは手段でしかなかったのです。
妻は続けました。
「投資って、使うために増やすものじゃないの?ずっと増やし続けるだけなら、それは本当に豊かなのかな」
その言葉は、私の心に深く刺さりました。
投資の本当の目的とは
投資を続けることは大切です。長期的な視点を持つことも、複利の力を信じることも、間違いではありません。でも、それと同じくらい大切なのは、「なぜ投資をしているのか」という目的を見失わないことだと気づきました。
投資は、人生を豊かにするための道具です。老後のため、子どもの教育資金のため、夢を叶えるため。理由は人それぞれですが、最終的には「使う」ことで初めて意味を持ちます。
もちろん、衝動的に全てを使ってしまうのは良くありません。でも、計画的に、自分や家族のために使うことは、決して悪いことではないのです。むしろ、それこそが投資の目的なのかもしれません。
お金は回してこそ価値がある
その日、私は少しだけ利益を確定して、家族旅行の資金にしました。残りの資産は、これまで通り長期で運用を続けることにしました。
旅行から帰ってきた時、子どもたちの笑顔を見て、心から「投資をしていて良かった」と思いました。これまでは、資産が増えること自体に喜びを感じていました。でも、その日初めて、投資が本当の意味で私の人生に役立ったと実感できたのです。
読者のみなさんへ
もしあなたが、投資で利益が出ているのに使うことに罪悪感を覚えているなら、一度立ち止まって考えてみてください。
「何のために投資をしているのか」
その答えは、人によって違います。でも、どんな答えであっても、最終的には「使う」ことで初めて投資の価値が生まれます。増やし続けることだけが正解ではありません。
計画的に使い、また積み立てる。そのバランスを取りながら、自分なりの投資との付き合い方を見つけていけたらいいですね。
まとめ
投資で得た利益を使うことに罪悪感を覚えた経験から、私は投資の本当の目的を見つめ直すことができました。お金を増やすことは手段であって、目的ではありません。大切なのは、そのお金をどう使うかです。
長期投資を続けることも大切ですが、時には自分や家族のために使うことも、同じくらい価値のある選択です。焦らず、でも目的を見失わず、一緒に投資を続けていきましょう。
あなたの投資が、あなたの人生を豊かにするものでありますように。