投資信託で少しずつ資産運用を始めて半年ほど経った頃のことです。ある日、同僚との会話で「個別株もやってみたら?」と勧められました。でも、どの企業を選べばいいのか全く分からない。そこで初めて「決算書を読んでみよう」と思い立ったのです。
その夜、パソコンの前に座って企業のIR情報ページを開きました。PDFで並ぶ決算短信や有価証券報告書。クリックしてみると、そこには見慣れない専門用語と、びっしりと並んだ数字の羅列。正直、最初の5分で「これは無理かも…」と思いました。
数字の海に溺れそうになった
貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書。これらが「財務三表」と呼ばれる重要な書類だと、投資の本で読んだことはありました。でも、実際に目の前にすると、どこから読めばいいのか、何が大事なのか、さっぱり分かりません。
「売上高」は分かる。「営業利益」もなんとなく。でも、「のれん」って何?「繰延税金資産」って何のこと?専門用語に次々と出会うたびに、心が折れそうになりました。
ネットで「決算書 読み方 初心者」と検索して、解説記事をいくつも読みました。「まずは売上と利益の推移を見よう」「増収増益の企業を探そう」といったアドバイスを見つけ、もう一度決算書に向き合ってみました。
一つの企業の物語が見えてきた
そうやって粘り強く読み続けていると、不思議なことが起こりました。数字が、少しずつ「言葉」に変わってきたのです。
たとえば、ある小売企業の決算書を見ていた時のこと。売上高は毎年10%ずつ増えているのに、営業利益率は少しずつ下がっていました。「これって、もしかして競争が激しくなって値下げせざるを得なくなっているのかな?」そんなふうに想像すると、急に数字の向こう側にその企業の苦労や挑戦が見えてきたのです。
別の企業では、投資活動によるキャッシュ・フローがマイナスになっていました。最初は「お金が減ってる!大丈夫?」と心配になりましたが、よく見ると設備投資に積極的に使っていることが分かりました。「これは未来のために投資しているんだ」と気づいた時、その企業の前向きな姿勢を感じました。
投資は企業と一緒に歩むこと
決算書を読んでいて、大切なことに気づきました。それは、投資って単に「株価が上がるか下がるか」を当てるゲームではないということです。
決算書には、その企業がどんなビジネスをしていて、どんな挑戦をしていて、どこに課題があるのかが書かれています。数字の羅列に見えるけれど、実はその企業の「物語」なんですよね。
完璧に理解できなくてもいい。最初は売上と利益の推移だけでも見てみる。それだけでも、その企業が成長しているのか、踊り場にいるのかが見えてきます。そして、その企業の未来に期待できると思えたら、株主として応援する。それが投資の本質なんだと、あの夜初めて実感しました。
初心者の私からあなたへ
もしあなたが「決算書なんて難しそう」と思っているなら、まずは一つだけ見てみてください。興味のある企業でいいんです。全部を理解しようとしなくて大丈夫。
- 売上高と営業利益の推移:3〜5年分を見て、増えているか減っているか
- 増収増益かどうか:売上も利益も両方増えていたら健全な成長の証
- 成長率:昨年比で何%伸びているかを見ると、企業の勢いが分かります
これだけでも十分です。分からない言葉があったら、その都度調べればいい。一度に全部を理解する必要はありません。
大切なのは、「この企業はどんな会社なんだろう?」という好奇心です。その好奇心が、数字を物語に変えてくれます。そして、その企業を応援したいと思えたら、それが投資を始める一番の理由になるはずです。
まとめ
あの夜、決算書の海に溺れそうになりながらも、なんとか泳ぎ続けたことは、今振り返ると本当に良い経験でした。
投資は、企業の数字の向こう側にある物語を読み解くことでもあります。完璧である必要はありません。少しずつ、自分のペースで読んでいけばいいんです。
あなたも、気になる企業の決算書を一度開いてみませんか?きっと、新しい発見があるはずです。一緒に学んでいきましょうね。